2009年7月30日木曜日

商業印刷における紙の意義

Webより紙が良い点を考えてみようという議論を社内でやったことがある。単純に,コスト面や作り直しのことを考えると,発注側にとってはWebの方が良さそうなのだが,受注側にとってはまだ紙の方が儲けやすい…

という発想は,あからさまに売り手視点でさもしいのはわかっている。本来なら,購買予定者が出会う情報の経路の仮説をたて,その経路上に適切なコン テンツを配置する。その際にWeb(というのもあまりにもだだっぴろい概念だが)と紙を適切に選択する,というのが理想なんろだろうが,とりあえず先の宿 題ということにしておく。

で,そのとき出た回答と自分があらかじめ用意していた回答をまとめておく。

1.タンジビリティー(具体性)
これは誰もが考える一般的な答えである。紙のほうが使いやすい,見やすい,楽しい,美しいという表現もできるが,「把握するべき情報が限定されると いうメリット」が大事なのではと思う。「全体としてとらえたときはその厚みで大まかな情報量を肉体で把握できること」,「開いたときは見開きという空間以 上に神経を使わないでいい」という紙の良さは,アテンションエコノミーの現代においては情報受信者にとって良いことだ。そのとき,限定された情報空間に掲 載可能な量に情報を圧縮する「編集」能力は非常に重要である。

この編集は「ロジカルとエモーショナルの軸」と「言語とグラフィックスの軸」で整理できる(エモーショナル+グラフィックスに注目すればいわゆる 「デザイン」という分野になるのだろう)。どの経路に置くべきかでこの2軸のどの部分を強めるべきか考える必要があるわけである。

2.コスト
これは逆説なのだが,コストがかかることで必要な情報を精選できるというメリットが紙にはある。これも当然「編集」が必要になるのは当然である。ま た,コストのかかる高級な販促物を用意できるということは,提供している商品やサービスにそれ相当の自信がありますよ,という非明示的なメッセージを消費 者に送ることになる(5参照)。

3.締めがある
これも逆説。印刷というステップがあることで情報整理に締めが自然とできる。というわけで,Webしかないときは間違いだらけの情報も,紙を加えることで情報が整理される力学が自然と働く,ということである。

4.動作を加えることで記憶を強化できる
Webもいろいろ記憶を強化するための工夫はあるし,テレビCMも同じだが,紙は紙独特の,「ページをめくる」,「切ったり張ったりする」といったような「動作」を伴わせることで,情報にする人の記憶を強化できるというメリットがある。しかし,これは行き過ぎると会社の商材としては変な方向に行く可能性もあるので,ワンポイントぐらいに考えておくべきか。

5.ザハヴィのハンディキャップ原理
これは2のバリエーション。金のかかる紙メディアをわざわざ提供しているのは,そのコストを受け入れられる余裕があるということで,ある種のブランドを確立することができる,という少し強引な論理。

「無駄をするというハンディも背負うことでその優秀さ優位性をアピールする」ということらしい。

「逆説」は,営業のときのうんちくとして,出しどころを誤らなければけっこう効く。